『伊藤圭のポートレート写真展』に行ってきました。
Twitterでも流しましたが、追記した感想を書いておきます。
展示の内容はタイトルそのまま、ポートレート展。このギャラリーは部屋が二つあるんだけど、今回は両方とも使って展示している。構成としては、壁展示が数十点とブック作品が2冊で、作品のボリュームはたっぷり。心地良いBGMと柔らかいライティングでいい雰囲気だった。
まずは壁展示。これらの作品は(上の写真のように)写真の内容だけでなくフレームの配置のリズムが楽しい。BGMとマッチしてたような気もする。いずれの作品もシンプルな構図。展示を進んでいくと、彼とそれぞれの被写体との関係の比重が感じられると思う。つまり、作品数に対して各被写体は均等ではなくやや偏っているということだけど、これはあとで理解できる。
両方の部屋の壁展示を順路に沿って観た後、奥の部屋(順路2)にあるブック作品”simple”を開いた。そこには彼がこれまで経験してきた「写真と人」を繋ぐ物語、そして彼とその被写体を「写真」が繋いだ物語が詰まっている。写真に添えられた短いフレーズはもちろん写真がプリントされたあとに書かれていて、シャッターを切った瞬間からは時間差があるはずだ。だけど、その瞬間にファインダー越しに見ていた写真になる前の景色に対する嘘でも想像でもない彼の感情がリアルタイムに描かれている。このブックは人によって捉え方が大きく変わるだろう。男性か女性か、写真を撮る人かそうでない人か、恋をしたことがある人かそうでない人か。ぼくは恋を経験した写真を撮るひとりの男性としてこの作品に向き合った。すばらしい作品だと思う。
手前の部屋(順路1)にあるブック作品のタイトルは”Rocking Timer”だった。このタイトルは、彼の昔のWebサイトのタイトルと同じだ(ぼくが彼を知ったときのWebサイト)。 このブックでは彼の眼が捉える風景とその瞬間が収められている。(すべて6×6フォーマット。たぶんRolleiflex?)。ネコとか、バスとか、風車とか、被写体はさまざま。だけどブックを通して光と風を感じることができる。逆光で捉えた海辺の女性の写真がまさにそうだった。こういうスナップ的な写真では、撮影者がこの世界のどんな場面に反応しているのかが垣間見えてとても楽しい。
これらふたつのブックを見たあとにあらためて展示を巡ると、彼が大切にしている人々との距離感や関係性を、大好きな写真という世界にやさしく写し取っていることが伝わると思う。ぼくは写真としての技術的なところをどうこう言う素地は持ち合わせていないけど、共通して素直なトーンとカラーなのは本人の性格そのままなのだろうと感じた。この写真展全体を作品として捉えた時、写真というものがきっとより好きになる温かさを感じることができると思う。
ぼくは彼のようには撮れないし、彼らのように撮られることもできない。だけど、あの作品たちを観ることで彼の世界に少しでも触れることができてよかった。また写真が好きになり、人と人との繋がり方について考えをめぐらせる機会を得ることができたから。