2007.11.07 水曜日
空席
“Be Happy with…..!”
飛行機の音が秋の朝空に広がる。
男は目を覚まし、眼をこするよりも時計を確認するよりも早くカメラを手にした。
焦点の合わないままにレンズを天に向けて
オートフォーカスに全てを委ねてシャッター音を聞く。
何度こんな朝を迎えただろう。
2週間前、図書館で本を3冊借りた。
いつもなら読み終わってるはずの3冊を読了できなかった。
最近、時間が経つのが早いのだ。
読みきれなかった本たちとはひとまず別れて、
今回は1冊だけ借りた。
あまり頻繁に会うことのない人
数回しか会ったことがない人
一回しか会ったことがない人
加速的にその人の記憶は溶けていく
だけどその人のことは忘れない
あらゆる不要な情報が削ぎ落とされて
抽象的だけど間違いのない「印象」だけが残る
声は忘れたし顔もほとんど忘れた
だけどあなたのことは忘れないと思う
晴れた日のプロペラ機の音は心地良い
太陽光の直射と闘いながら空を見上げ彼を探す
音は聞こえるのにその機体が見つからない
見つからないものは大抵、決まった場所にいる
やはり彼は僕の後ろから現れた
たまに小さくなってみる
周囲が拡大して見えて
細かい傷とか僅かな綻びに気付く
無視しても構わない
見えるだけで、それだけなのだから
(Blogデザイン変更中です。乱れています。)
「地球にも環があったら」
図書館のイスに座ってそんなことを考えていた
「青い地球には何色の環が似合うだろうか」
もうほとんど眠りの谷に落ちながら考えていた
「環って宇宙の塵とかの集まりだっけ」
寝そべる机の上の塵が気になり始めた
ようやく意識が宇宙に飛んだあたり
そのタイミングで友人が帰ってきて思考は止まった
ステンレス製のコップに冷水を注ぐと
間髪入れずにコップの表面が水滴で覆われた
そしてその水滴を何気無く指でなぞった
なぞった後の指のことは覚えていないものである
斜めの地面
垂直に立つ友人
カメラを構える自分
この場面にどんなインスピレーションがあったのか
いやそれともなかったのか
案外覚えてないものである
月がぼやけるのでメガネをかけてみたけれど
メガネをかけても月は滲んでいた
視力は下がり続ける
度数が合わないメガネは気休めに成り下がる
徐々にそして確実にピントがずれてゆく
輪郭は失われ曖昧になる
本質を掴みきれずに泣きを見る
レンズを介さねばならなくなった世界は
どうしても本物とは少し違ってしまうだろう
だけど僕はレンズ無しでは生きていけないと知り
滲んだ月に眼を細めた
「無効」
(名・形動)[文]ナリ
(1)効力・効果のない・こと(さま)
「切符が―になる」「―投票」
(三省堂提供「大辞林 第二版」より)
自分の起こした行動が
他に効果を与えるかどうか
その成否の一切は他に委ねられると思う
自分の起こした行動が
自己に意味があるのかどうか
その是非の一切は自分次第であり
行動を起こす前の予想はたいていあてにならない
この切符の効力は無くなっても
この切符の持つ意味は悲しいくらいに
朱印の如くそこに留まるのだ
クルクル廻る地球の上で
グルグル廻る洗濯機を見て
ズルズル引き込まれそうになる
地球と洗濯機
廻るという点において両者は同一である
そんなくだらない発見
考えることをやめた人間は猿に過ぎないと
誰かが言ったそうだ
それは猿に失礼である
感覚的な話ではあるが
物悲しさを感じることが多くなった
テレビドラマのストーリーに織り込まれた
計算された悲しさをも包括したような
虚しさとも感じられる物悲しさ
つまりそれは
世界を素直に受け入れることを拒み
どこか横目で盗み見るような
捻くれ者の考え方
一日の終わり
歩道に忘れられた郵便ポストですら
何らかの暗喩を含んだ物悲しさに溢れ
思わずシャッターを切った