当たり前のように見ているものはいずれ見ることができなくなるんだ
そんなことを意識したときの不安感に耐えられなくて
結局その日が来るまで考えることを拒絶する
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僕が生まれたとき、我が家はマンションに住んでいた。
9階の部屋だったので見晴らしがよく、夏は花火大会が綺麗に見えた。
あと、眼下には小さな人や小さな車が動いているのが見えた。
そんな景色もかつては見慣れていたわけだけど、今はなんとなく、ぼんやりと、あいまいで。
「慣れ」は接した時間の長さで形成される反面、一度離れてしまうと今度は時間とともに失われていく。
そして人は、「慣れ」ていることに気付くことが少ない。
離れた瞬間に蓄積された「慣れ」を初めて意識するから大きな喪失感に襲われることになる。
その”「慣れ」の喪失感”を慣れていく過程の真っ只中に想像してしまうと
いずれ経験するがまだ実感はできない、空恐ろしさに取り囲まれる。
その恐怖から逃れるために、絶対的なものに心をゆだねる。
そう、例えば月とか。