今日は風の強い一日だった。窓を開ければ、たっぷりの湿り気を含んだ空気が部屋へと押し寄せてくる。カーテンはあわてふためくように大きく舞い、それに合わせて光がちらちらと床に跳ねる。空では雲が細かくちぎれて引き伸ばされて、かすれた毛筆のようになって漂っている。その雲が風に流されて太陽にかかると、世界にくっきりと落ちていたかげが淡く溶ける。すうっと日なたと日かげが歩み寄って一つになる。
お気に入りのジーンズの裾にくるくると捲り、お気に入りの靴を履いて、風で重いドアを開ける。青空に浮かぶ雲から、薄らと雨が降っている。光を受けて、細かな雨粒がふんわりと輝く。そんな光景に目を奪われながら階段を降りる。
駅へ向かう道、強めの追い風が細かな雨と混ざりながらぼくの背中を包む。柔らかく、ひんやりと、しっとりと。ふと、道端に止まっている車のリアガラスに目がいった。そこには穏やかな青空と薄く明るい雲が映りこんでいた。それを見た瞬間、なぜだろう、すごく久しぶりに涙が出そうになった。ヘッドフォンから届く音楽がまた、どうにもたまらなかった。